羽黒山 ぶらり散歩

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    修験道にはなにかと興味があった。仏教やキリスト教のように大きな宗教がある民族に受け入れられるためには、その民族の風族、習慣に合わせなければならない。頭ごなしに改宗させようとしても、上手くはいかない。修験道神仏習合という見方よりも、日本人が仏教を受け入れだときの日本人の心象を表しているように思う。

    今年(二〇一八年)八月、蔵王への旅行を計画していたら、急に羽黒山に行こうと思い立って宿を探した。すると、多聞館という宿を見つけた。そういえば、東大寺塔頭に多聞院というのがあったことを連想して、慌てて予約したのだが、案の定、あとで知ると、ここはかなり伝統のある宿坊であることがわかった。出羽三山羽黒山の門前で宿を営むこと三百年の宿で、建物は大正の頃からのものだという。なるほど、周囲を歩くたびにぎゅうぎゅう音のする廊下で囲まれた座敷を当てがわれた。鉱泉に浸かり、宿の精進料理を食べながら宿の主人の話を聞きながら羽黒神社のことを思い、一夜を過ごした。

f:id:yburaritabi:20181112080347j:image(この地図は出羽三山神社のHPからお借りしました)
    その前の話である。蔵王の宿を朝早く出て、山形道を北東方向に向かった。昼前には多聞館に着いた。宿の駐車場に車を置いて、私たちは羽黒山神社へ向かった。およそ一キロほどはありそうな門前の道を、両脇に立ち並ぶ宿坊の玄関を眺めつつ歩くことを数分、私たちは羽黒山神社に入る鳥居に着いた。

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   羽黒山神社は通称で、正しくは出羽三山神社という。月山、湯殿山羽黒山それぞれ三山を過去、現在、未来を象徴する阿弥陀如来観音菩薩大日如来に見立てて、山に住まう神を崇める山岳信仰の対象となっている。羽黒山にある三神合祭殿がその中心であり、出羽三山の入り口でもある。その神域への関門が随神門である。

   意外に質素な随神門をくぐると急な下りの石段が行く手に現れる。羽黒山の長い登りの石段は耳にしていたので、この下りの石段には意表を突かれた。

   底に辿り着く。振り返り見上げると、すでに随神門は見えないほどに低いところにいる。この谷の底に修行の場があった。谷の底をいくつもの祠に手を合わせつつ歩くと欄干を赤く塗れた神橋(しんばし)に差し掛かる。下を流れる祓川(はらいがわ)は、このとき台風の影響か、相当な水量だった。その先、距離にして三、四十メートルのところが切り立った崖になっていて、これも高さ二十メートルほどはありそうな滝となって水が落ちている。須賀(すが)の滝である。

   出羽三山詣の人たちはここで身を清めたそうだが、水量の多さから、このときは滝に打たれると命の危険を感じる。私たちは滝壺の傍の祠に手を合わせるだけにして、また歩を進める。

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    参詣道は樹齢350〜500年の杉の巨木に包まれている。傍にはかつての宿坊跡と紹介されている場所もある。修験者たちはこの谷底の杉木立に包まれて、山に住まう神々を追い求めたのであろう。まもなくそれらの杉の巨木の中でも一際大きな爺杉(おきなすぎ)に出会う。樹齢1000年とも言われている古木には目を奪われる。

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    爺杉を離れると、ほどなくして羽黒山五重塔が杉木立に見え隠れする。東北地方最古の五重塔の塔で、国宝に指定されている。そして塔の正面に立つ。風雨に晒されて色褪せた塔の飾り気のなさが鬱蒼とした森の中では相応しく感じられる。このとき、塔の中程まで登って塔の中の木ぐみを見ることができたが、心柱が固定されずに、塔と鎖で繋がれて宙吊りなっている仕組みと聞いた。宙吊りの心柱は初耳だったが、これは懸垂式という江戸時代に始まった代表的な工法のひとつだそうだ。
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   五重塔の塔を過ぎるころから参詣道は登り始め、いよいよ全長約2km、2446段の石段が始まる。一の坂、二の坂、三の坂と行けども行けども終わりのない石段は、修験者でもない私たちにも難行を科そうとする役行者の心根とも受け止められる。この苦行に耐えたものが三神合祭殿を前に立ち、祈りを捧げることが許される。
    私たちは苦行を克服したとばかりに、三神合祭殿に祀られた、過去、現在、未来を象徴する阿弥陀如来観音菩薩大日如来に手を合わせ、祭殿を出ると、境内に配置されている全国各地の有名な神社を模した祠一つ一つに祈りを捧げた。
    ここで知ったのだが、現在は随神門に近い、いでは文化記念館前からバスに乗って三神合祭殿にまで行けるのてある。このバスは鶴岡市から出ているらしい。六根清浄、六根清浄… 私たちもバスに乗って戻って行った。